消費税10%

 

菅内閣は実施する?

 

2010年、民主党政権下で初めて国政選挙が行われた。争点は「消費税」だった。結果は与党惨敗。しかし国民の消費税導入に対する理解は別に低くはないようだ。

 

私は個人的には小さい政府の支持者である。したがってどんな形であれ増税には警戒する(ちなみに経済学は「小さい政府」が正しいとも「大きい政府」が正しいともいわない。これは個人の好みの問題である)。増税には反対だが、直間比率を変えることには賛成である。民主党の提案は、企業減税とセットになっていたので好印象であった。産業空洞化のこれ以上の進行を防ぐため、法人減税は早期の実施が必要だと思う。ついでに欲を言えば、中間所得層に対する所得税減税も考えてくれたらなおいいのだけれど・・。

 

さて、所得税は累進構造があるので、消費税より「公平」とされる。一方で所得補足が難しいため、所得税にはいわゆる10, 5, 3, 1(トーゴーサンピン)なる問題が生じる可能性がある。税の累進が公平か不公平かは、実はやや判断の難しい問題なのだが注)、トーゴーサンはあからさまな不公平である。

 

また、脱税までいかないまでも、節税に勤めている人は沢山いるだろう。およそ「節税の努力」ほど、社会全体からみて無駄な「努力」はない。消費税は、脱税も違法ギリギリの節税もしにくいところが優れている。だから、財政健全化のために、どうしても上げるしかないというなら、消費税、というのには多くの国民同様、私も基本的に賛成である。

消費税の逆進性をやわらげるため、菅総理大臣は、「低所得者には還付する」と言ったそうだ。逆進性への配慮が必要だとしても、還付はやめたほうがよろしい。なぜなら、正しく還付するには正しい所得補足が不可欠だが、現状でそれができてない以上、不公平に輪をかける結果となるだけだからだ。また、高齢者が資産(ストック)を持っている日本においては、所得(フロー)が少ないからといって貧乏とは限らない。逆に言うと、こういう人にもあまねく払ってもらえるところが消費税のメリットなのである。所得を元に還付するようでは、消費税のメリットはまったくなくなるといっていいだろう。それに、一度集めて、返却するのは行政コストがかかることも見落とせない。10円預けて8円しか帰ってこない(2円は公務員の手数料)というような話になるだけである。これではメリットが消し飛び、逆に無駄がふくらむばかりである。複雑で分かりにくく、行政コストがかさむ税制はそれだけで悪税だと思うのだ。

逆進性緩和のもう一つのアイディアは、必需品に対する軽減税率の導入である。これは諸外国にもある。たとえば私が教育をうけた米国ボストンでは、食品に消費税はかからなかった(当時。今は知らない)。また、300ドル以下の衣類も非課税であった。これは、上記の還付より、行政コストからみてかなりマシだと思う。だが、なにが課税対象でなにが非課税なのかを決めて管理するのは、多分簡単ではなく、やはり不正や利権や無駄が生じる隙間ができそうな気がする。繰り返すが、税制が「シンプル」であることはただそれだけで価値があると思うのだ。

 

だが、食品を非課税にしたい気持ちは痛いほどわかる。なぜか。

 

日本は食べる物がお高い国だからだ。

 

一昔前、日本の物価は高いといわれた。だが、何年も続いているデフレのおかげで、そうでもなくなってきたと感じる。今、海外に行っても、日本にくらべればタダみたいだ!と感じることは昔より大分すくなくなった(円はうんと高くなったにもかかわらずだ)。

 

しかし、食品は相変わらずちょっとお高い。なぜか。

 

関税が高いからだ。

 

農水省は、日本の食品まわりの関税は諸外国とくらべて高くはないとおっしゃる。だがその前提となる数字は、家畜のエサ用とうもろこしまで含めたすべての農産品の平均だったりして、家計を預かる庶民の目からみた関税の高さを必ずしも反映しない。たしかに平均は低いが、肝心なところが高いのである。すなわち、(人食用の)米、小麦、肉、乳製品である。

 

確かに平均は安いので、このさい全体をこれ以上下げてくれとはいわない。上記の主要4品目だけでよい。これだけでよいので関税をゼロにしておくれ。そうすれば、家計は大分助かるだろう。なにしろ、米や小麦の関税は重量ベースであり、価格ベースで見ると、本体の4倍とか5倍とかの高関税に加えて、実質関税であるマークアップ(後述)などというものまでかかっていたりするのである。売値のほとんどが関税とマークアップなのに、これに消費税をかけるなんて税金に税金じゃないかと思う。

 

関税とマークアップがゼロになれば、小麦の値段など半値以下になるはずであり、5%くらい消費税が上がってもおつりがくる。900%とか1700%とか言われる(原価による)、こんにゃくに対する課税も不愉快ではあるが、こんにゃくは食べたくなければ一生食べなくてもすむようなものなので、見逃し可能である。

 

関税とマークアップがかかっていても相変わらず、輸入品は国産品よりちょっと安い。したがって、フローもストックもなく本当にお金のない人は、市場でこれらの製品を選択しやすい。だから、これらの製品の大幅値下げは間違いなく、お金のない人の助けになるはずだ。

 

ところで、マークアップとはなにか。私にも未だによくわからない。マークアップとは「国家貿易等の麦の制度を運営するために必要となる保管料等の政府管理経費及び国内産麦等の生産を振興するために必要となる経費(品目横断的経営安定対策に要する経費)に充当されるもの」だそうだ。

 

分かりにくい。経費は正当としても、国内産の生産振興費がなぜ輸入農作物に課せられるのか?これはどうみても税金であろう。ただ、おそらく入れる懐が関税とは違うのだろうと思う。だから別の名前をつけて区別してあるのではなかろうか。いずれにしても、税金、マークアップ、他にも近代化資金などわけの分からない名目の上納金で、主要な輸入作物の価格は相当吊上げられているのである(しかもその仕組みは品目ごとに異なっており、外からちょっと調べたくらいでは到底わからないくらい複雑怪奇である:どうみても悪税)。

 

もちろん、関税とマークアップを全廃すれば、米、小麦、畜産農家には打撃である。ここで初めて「農家への戸別補償」の意味が出てくる。関税をゼロにして、消費者に多大な恩恵を与えれば、その対価の一部を支払う形になる農家への補償はバラマキとは言われないだろう。そういうことがなにもなく、トーゴーサンピンのピンに金をまくからばら撒きだ、選挙対策だといわれるのである。

 

安倍内閣は野田内閣の「遺志」をついで、TPP参加に積極的なようで大変期待している。もっとも、自民党には農業票があるので、直ちに上記4品目は非課税にはならないだろう。だが、参加さえすれば、将来的には障壁が取り除かれる可能性もあり楽しみである。貿易理論の原則論からいえば聖域はできるだけ小さいほうが国益にはかなう。守るべきなのは利権ではなく本来の意味での国益である。

 

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