民主党のマニフェスト


- 高速道路無料化考 -



民主党が次期衆院選挙のマニフェスト(選挙公約)で高速道路通行料金の無料化を掲げる方針という。代わりに「自動車保有税」を検討しているとか。さらに、現在財政投融資から借りている資金を国債に切り替えるという。こうすると、自動車保有税を考慮してもネットでの国民負担は軽減される、というものらしい。

財政投融資から国債に切り替えをするのは、もし、そのほうが安いならやったらよい。だが、高速道路の無料化には懐疑的だ。理由は環境に悪いから。

高速道路が有料である場合、利用者は、その料金(コスト)が利用することによる便益を下回る範囲でしか利用しない。しかし、料金がゼロなら好きなだけ利用することになる。つまり、料金がゼロになれば、車が増えるんである(当たり前)。このことはもちろん利用者の便益を増加させるだろう。だが、社会全体の便益を増加させるかどうかは分からない。理由は、現状で自動車の環境コストが内部化されていないこと、それから、混雑がある場合いっそうの車の増加が全体の純便益を減少させる可能性があること、である。

まず第一の点から考えよう。車の環境影響は排気ガスによる環境、健康影響、それから二酸化炭素放出による温暖化問題への寄与があるだろう。健康影響については、問題になるのは都市部に限られるかもしれない。民主党の案では首都高と阪神高速道路は当面有料とするらしいから、その「当面」の間は問題にならない可能性はある。だが、温暖化ガスの方は増加する可能性が高いのではないか。もちろん、有料道路の車増加分と同じだけ一般道路の車が減少すれば、排ガスは減るだろう(一般道より高速の方が燃費がいいから)。しかし、自動車保有に税金がかかる場合、利用すればするほど、単位利用に対する税率は減少するため、自動車の利用は促進されると考えるほうが自然であろう(民主党が検討している自動車保有税は、車を手放させるほどの金額ではない)。車での移動は電車やバスでの移動にくらべて、人、キロあたりの温暖化ガス排出量はとても多い(ちなみに飛行機と比べるとそうでもない。セダンに二人乗った場合飛行機とトントンである)。実際、温暖化ガス排出の、交通部門の寄与分は結構大きいのである。高速道路が無料になればこれがまた増加する可能性がある、いや確実に増加するだろう。

温暖化ガスの排出源としては、火力発電所などが大きいから、代わりにこれを自然エネルギーに変えればいいじゃないか、という提案があるかもしれない。自然エネルギーの利用には大賛成である。少なくとも、原子力発電所よりはよい。だが、考えてほしい。原油の利用を主導しているのはガソリンである。火力発電所が燃料に使っているのはガソリンではなく重油。つまり、火力発電は原油からガソリンを精製した副産物、いわば廃物を利用した発電なのである。したがって、ガソリンの利用を減らさずに重油の利用だけ減らせるわけがない(まあ、コーススとかにはできるんですけどね)。そう考えると、温暖化問題における車の寄与分は表面的な数字以上に甚大と考えなければならない。

また、「高速料金が安いので軽自動車にしました」、という人が結構いるものだが、このインセンティブを減少させるのもいただけない。世の中ハイブリッド車流行りであるが、あのプリウスだって、燃費では軽にかなわないのである(大きさが違うのだから当たり前。だがここで問題にすべきは大きさ当たりの効率ではなく、結果としてのトータルな温暖化ガスの排出量だ)。

第二の問題も「当面」は問題にならないかもしれないが、渋滞がある場合、一定の使用料があったほうがよい場合もある。渋滞している高速道路に、新たに一台の車が乗ってくると、利用者の費用(時間を使うこともふくめた費用)は増加する。一つの車は便益とコスト(私的費用)がつりあえば、混雑していても高速を利用するであろう。しかし、社会的な限界費用は私的限界費用より大きいので、ほっておくと社会的な純便益を最大化させるところでは均衡しないという事態がおこるのである。つまり、無料にすることによって、総便益はむしろ下がるかもしれない、ということが結論される。

余談だが、都会に住んで、首都高くらいしか利用しないユーザーにとっては、今回の提案はいまいちうれしくない話だろうな。自動車保有税を人頭税みたいにとられたあげく、いつも使う道路は有料のまま(無料になったらブタ混み)というのではねェ。あと、ETCをつけちゃった人はかなり間抜けな思いをするでしょうな(民主党に買取請求をすべきでしょう)。

というわけで、結論。反対

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